「永遠なる玉響(たまゆら) ~三種の神器に隠された人類創世の秘密~

 あなたの人生で永遠に残したいものとは?
 あなたの人生で手放したくない一瞬のきらめきとは?
 
 この小説のタイトルである『永遠の玉響(たまゆら)』とは、そんな問いの答えを見つけようとする登場人物たちの葛藤と戦いを象徴したものです。私がこのタイトルに託そうとしたのは、矛盾する世界から湧き出でる真実の光です。
 
 玉響(たまゆら)というのは、勾玉同士が触れ合ったかすかな音を表現した言葉で、「ほんのしばらく」や「一瞬」を意味する古語です。つまり『永遠なる玉響(たまゆら)』というタイトルには、永遠と一瞬という相容れない言葉が同居しています。
 
 物語をすでに読んでいただいた方、あるいはこのホームページのあらすじをのぞいて下さった方は、この作品がタイムワープを扱ったものであることをわかっていただけると思います。
 
 日本の南北朝時代である1415世紀と、23世紀の物語が同時進行していきます。時間の流れで言えば、過去の原因が未来の結果となるのが普通です。だけどタイムトラベル作品の常として、未来の原因が過去の結果を引き寄せていくことになります。なぜならそこには、時間というものが有する避けられない本質があるからです。
 
 その本質とは、時間には『今』しかないというものです。
 
 私たちが過去をふり返るのは『今』です。私たちが未来をイメージするのも、やはり『今』です。過去は記憶でしかなく、未来は想像でしかありません。時間を体験することができるのは、誰にとっても『今』だけなのです。
 
 この物語を読み進めていくと、読者の方は過去と未来世界を体験しているように錯覚します。なぜなら物語を通じて二つの世界を俯瞰して見ているからです。だけど登場人物たちにとっては、常に『今』でしかありません。さらにタイムトラベルで過去へと旅立った主人公たちにとっても、そこは過去ではなく『今』なのです。そうして過去と未来の二つの世界は、やがて共通する『今』として統合されていきます。
 
 ややネタバレになりますが、そのための仕掛けとして、この物語の世界をすべて目撃した人物を配置しました。それは精神的な意味ではなく、実際に14世紀から23世紀までを生きたという人物です。
 
 そこで登場するのが玉響(たまゆら)を意味する勾玉です。天皇家の正当性を証明する三種の神器のひとつで、正式には『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)と言います。この勾玉にまつわる南北朝の混乱が14世紀へのタイムトラベルの原因となり、過去の結果へと影響を及ぼします。そうした時間の矛盾をこの物語を通じて体験していただきながら、過去や未来は幻想でしかなく、『今』しか存在しないことを実感していただけたら幸いです。
 
 とまぁ小難しい概念を述べてきましたが、哲学書を書いたつもりはありません。あくまでもSF時代小説として物語を紡ぎました。だから単純に主人公たちと一緒に、勾玉に関する謎解きと冒険を楽しんでいただけたらと思います。
 
 この物語を書くことになったきっかけ、さらに天川村を選んだ理由、なぜ鬼が登場するか等については、このホームページの著者欄で紹介させていただいています。物語を理解するバックヤードとして参考にしていただけたらと思います。
 
 ちなみに文頭の問いに対する私の答えを書いておきます。いまの私は日々永遠と一瞬を同時に感じています。それは愛する老猫のミューナに由来するものです。2020年の秋に慢性腎不全を発症したミューナ。一時は永遠の別れを覚悟しました。だけど今年(2022年)の6月には16歳の誕生日を迎えようとしています。
 
 そんな彼との貴重な時間は日々刻々と過ぎていきます。毎朝布団で彼の温もりを感じながら、この時間が永遠となることに思いを馳せ、彼の体毛に触れる一瞬に全神経を集中させています。
 
 あっという間に消えゆく一瞬が永遠となることを願いつつ、それを体験している『今』という時間にただ存在しています。それこそが『永遠なる玉響』で私が伝えたかったことです。